MK新聞

自家用車活用事業開始によせて

エムケイホールディングス株式会社 
代表取締役社長 青木信明 


本年4月からタクシーの供給不足の解消のため、タクシー会社が管理して一種免許保持者による自家用車での有償運送を行う「自家用車活用事業」が始まります。海外のライドシェアのようなイメージで受け取られることが多いですが、どちらかといえばタクシー事業に近い制度です。何より運行できる地域や時間帯や限度台数が国によって決められていることです。まずは東京、横浜、名古屋そして京都で行われます。京都で運行が認められる時間帯と台数は3区分、①月曜・水曜・木曜の16時台~19時台で200台。②火曜から金曜までの0時台~4時台で200台、③金曜・土曜・日曜の16時台~翌朝5時台で490台です。根拠は配車アプリ会社から提供された配車不能率などの数字を集約したものです。

私はこの数字に非常に違和感を抱いています。日頃よりコールセンターにお電話いただくお客様には朝夕の時間帯や雨天時には配車が遅れたりお断りせざるを得ない状況があり、大変申し訳なく思っているのが実情です。さらにこれが春や秋の修学旅行シーズンに重なると日中はずっと配車が難しい時間帯が続きます。インバウンドの観光貸切といったメータータクシーの需要だけでは測れないものもあります。一方で深夜に走っているタクシーは当社だけではないかと思うようなシーンも見かけます。平日の夕方も月・水・木・金だけにしている意味が分かりません。どのようなデータを配車アプリ会社から提供を受けたのかは分かりませんが、実態を反映しているとは思えません。各タクシー会社のコールセンターなどが一番実情を分かっているのではないでしょうか。

タクシーの供給不足はドライバー不足によるもので、2002年の規制緩和後のタクシー自由化後に業界は供給過剰問題を取り上げて再規制を求め、タクシーは長時間労働で低賃金というイメージを発信することで再規制を勝ち得ました。しかし皮肉にも社会に浸透したイメージによって若い働き手が入らず高齢化の一途をたどり、いまの供給不足につながっているものと私は考えています。昨年来ライドシェアの議論が巻き起こり、賛成反対がぶつかりあうなか、私は今のタクシーが市民の移動の足を守れないならば、ライドシェアという別の方法によってそれを確保する流れになるのは必然であると考えてきました。移動の担い手になっていただける方がいるのであれば、それはタクシーでもライドシェアでもよいでしょう。働きやすい環境をつくることが事業者の務めです。

その働きやすい環境という点において、この度国土交通省から示された時間帯や台数を見て唖然としました。いったい誰が平日の深夜帯だけ働くというのでしょうか。人がいないから供給不足になっている、それを解消するためにこれまでにないところから人を呼び込む、であればもっと自由に時間を設定できるようにすべきではないでしょうか。人を集まらなくしてこの制度をわざと失敗させようとしているのではないか、とまで勘ぐってしまいます。

個社別に時間帯や台数を設定することも一案です。私どものコールセンターの状況を見ていると、4月~6月と9月~11月は7時から19時を運行可能時間帯とする、それくらいの裁量がなければタクシー供給不足の解消と、働き手がやってみたいと思える制度にはなりません。これから2025年の大阪万博に向けて京都にはさらに人が押し寄せるでしょう。本制度開始後に再考を願いたいです。

(2024.04.05)


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