MK新聞

（1面記事より）
拝啓　国土交通大臣　中野　洋昌 殿

額に汗と油が通じない時代に
人材教育が企業経営の鍵

トランプ関税の混乱で　景気の先行きが不透明

　トランプ政権の関税政策が世界中に影響を与えアメリカへ輸出する製造業に大きな打撃を与えています。各国は対抗措置を打ち出し、先行きの不透明感が増したことで世界経済の成長の鈍化を引き起こしていると言われています。
　日本においては飲食や宿泊など非製造業は価格転嫁とインバウンド需要で活況を呈し、さらに、４月13日から大阪・関西万博が開幕し楽観ムードがありますが、いつまでもこの状況が続くとは思えません。長いデフレ経済に慣れ切った経営者にとっても日本国民にとっても、これから起こるであろう社会経済の変化についていけるかどうか、生き残りをかけた戦いが始まるのではないでしょうか。

行動すればこそ成功　安全・挨拶・掃除を実践

　本年４月１日には44名の新入社員職員を迎えて入社式を行いました。はなむけの言葉として「失敗は成功のもと」ということわざを贈りましたが、失敗するということは何らかの行動をしたということです。成功も失敗も共通することは「行動・実行・チャレンジ」。行動しなければ成功はありません。若者の特権として失敗を恐れず繰り返すためには、周囲の人との絆を大切にすることが必要です。最初は周囲に助けられていた存在がいつしか周囲をカバーするまでに成長し、そのサイクルが個人と組織を強くしていくのです。
　ＭＫで大切にしていることは安全、挨拶、掃除です。何も難しいことはない、人として至極当たり前のことです。しかもそれらは精神論ではなく、誰しもが教育によって身に付けることができる実践論であり技術なのです。教育は一朝一夕にできるものではなく根気強く繰り返し行うことでほんの少しだけ身に付くもので、ＭＫという組織にいる限り続けるもの、教育というものは一度やり始めるとやめられません。そうやってＭＫイズムを身に付けた人が新しいエリアに進出する時には責任者となり、その地でお客様に信頼されるようなＭＫブランドを育てていきます。２００２年のタクシー規制緩和を機に全国展開を始め、本年３月に始動した沖縄を含めて全国９都市で運行しています。安全・挨拶・掃除を技術として身に付ける、極論するとＭＫの成長の源泉はたったこれだけのことです。しかしながら徐々にこの成功体験に変化を迫られていると感じています。

額に汗することに評価が通じない時代になった

　創業者がＭＫ石油の前身である永井石油を創業し、その３年後にエムケイの前身であるミナミタクシーを創業した１９６０年代は高度経済成長期で、額に汗して油にまみれてお客様に接すれば喜ばれ売上も高まり会社も成長しました。私が社長に就任し２００２年の規制緩和を機に全国展開を推し進めた時期を第二の創業とすると、ここでも汗と油が通用しました。
　近年コロナ禍を境に社会の在り方が変わり、汗と油だけでは評価されない時代になりました。一例を挙げると、２０２４年問題と言われる残業時間規制を遵守しなければなりませんが、これまでの売上を確保できるハンドル時間を維持するために圧縮時間をどこに求めるかと考え、入庫後の丁寧な車両清掃を洗車機使用としました。社員研修会で私自ら社員に「手洗い洗車は禁止です」と告知した時の社員一同の驚いた顔は忘れられません。これまで掃除が大切と説いてきた人間が急に正反対のことを言うからです。ＭＫが大切にする安全、挨拶、掃除をどのように実践するか、方法は変えてもその精神は持ち続けられるようにする。これからは額に汗ではなく、脳に汗をかいて考えて考え抜かなければなりません。これまでの仕事のやり方が全く通じなくなる、変化に対応しなければ生き残れない、いわば第三の創業ではないでしょうか。労働集約型産業からの脱却が必要です。

脱タクシー脱石油は人材教育が鍵

　タクシー事業とガソリンスタンド事業を次のステージへ上げるために「脱タクシー」「脱ガソリン」を模索してきました。タクシーはこれから10年～20年で自動運転のロボタクシーが主流となるでしょうし、ガソリンはＥＶシフトでゼロにはならないとしても、いずれガソリンスタンドという業態は消滅するでしょう。経営合理化の一つの道としてセルフスタンド化がありますがボタンを押す要員だけを残すような合理化では価格勝負に陥り、やせ細っていく未来しかありません。セルフ化を進めると同時に洗車や車両販売、保険、タイヤ、整備など車に関する知識とスキルを持った人材を配置し、お客様とコミュニケーションを取ってガソリン以外の商材を販売します。スタンドを拠点に車に関するサービスをワンストップで提供する、そのために必要なことは人材教育です。
　タクシー事業もＡＩと自動運転技術が確立すれば、タクシーが移動インフラのメインストリートになります。誰もが今いる場所から行きたい場所へ移動できることが真の交通バリアフリーで、それを具現化できるのはタクシーだけです。長距離は電車、大量輸送はバスといった役割分担はありますが、タクシーは路線バスの均一料金のように安くなり、サブスクのように乗り放題になることでしょう。公共交通機関が安くて便利になれば自家用車の所有はなくなり、ロボタクシーが人々の移動の足を担うならば今の国内のタクシー車両台数の数十倍は必要となり、自動車産業は商用車が中心になることでしょう。その時、既存のタクシー会社がロボタクシーの運行に関わることができるのか、学習を重ねてプラットフォーマーやＩＴ企業に近付いていかなければなりません。
　一方でタクシー事業はロボタクシーによる二点間輸送とは異なる需要があります。人が人を接客することに価値がある観光接遇やアテンドするハイヤー需要です。ＭＫの「脱タクシー」の一つの解は「ハイヤー化」であり、ハイヤードライバーの育成のための人材教育にこれからもっと注力していきます。