あれは、入社2年目だったと思います。
若い男性をご自宅から名古屋駅までお送りしました。
ご乗車されるなり、「とにかく駅まで急ぎで!」「何分くらいかかります?」とお客様。
朝のラッシュ時ということもあり、「20分くらいみてください。」とお答えすると、
お客様も、満足いかないまでも「とにかく急いでください。」と言ってくださいました。
道中、お客様が名古屋駅まで急ぐ理由を教えていただきました。
「実は、嫁が関東の実家に戻っていて、子どもが生まれそうなんです…。」
私はそれを聞いて、信号に捕まらぬよう懸命に、裏道も使いながら、なんとか15分弱で駅に到着。
お客様は「無理を言ってすみませんでした。ありがとう!」と言って、足早に駅のなかに消えていかれました。
…それから、半年たったくらいでしょうか。
若いご夫婦と赤ちゃんのお供をさせていただいた折、若いご主人が開口一番にこう言いました。
「運転手さん、あの時は本当にありがとうございました。」
私が何のことかわからず、戸惑っていると、ご主人はこう続けました。
「運転手さんが頑張ってくれたおかげで、この娘のお産に立ち会う事ができたんですよ!」
私もあの時は急ぐあまり、お客様のお顔も十分認識できていなかったのですが、
この若いお父さんはしっかりと私の事を憶えていてくださり、
「ぜひもう一度お会いしてお礼を伝えたかった。」と言ってくださいました。
若いお母さんからも、何度もお礼の言葉を頂きました。
そして降車時には、愛娘さんのお顔を近くで見せていただき、その笑顔をご夫婦と共有させていただきました。
私の当たり前の仕事の一つが、こんなにもドラマのような出来事を生み、人に感動や喜びを与えている。
「なんてステキな仕事なんだ。」と、ちょっぴり誇らしげに感じたエピソードでした。
【ウレシイ話】「えっ!あの時の・・・」,